ワールドスピーク

キングジム開発担当者に聞く、翻訳機ワールドスピークのこだわりポイントと開発秘話

事務用ファイルやテプラをはじめ、独創的なオフィス用品を手がけるキングジムが、2019年12月にポータブル翻訳機「ワールドスピークHYP10」を発売しました。

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翻訳機「ワールドスピーク」ポータブルを使ってみた!特長や注意点を徹底レビュー

ワールドスピーク(World Speak)ポータブルは、株式会社キングジムが販売する音声翻訳機です。 キングジムと言えば、ニッチな需要を狙い、あえて機能を絞り込んだ個性的な製品で「テプラ」「ポメラ」な ...

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リスクを冒してでも最初に飛び込む「ファーストペンギンの精神」を理念に掲げるキングジムですが、後発でポータブル翻訳機を発売する狙いはどこにあるのでしょうか。

この度編集部では、キングジム開発本部 電子文具開発部 デジタルプロダクツ課リーダーの 高尾政利さんにインタビューして、翻訳機「ワールドスピーク」を発売するまでの経緯、こだわりのポイント、翻訳機が目指すべき「完成形」とは何か…など、たっぷりお話を伺いました。

 

 

 

ワールドスピークは「据置タイプ」と「ポータブルタイプ」の2種類を展開

ーー本日はよろしくお願い致します。まず、翻訳機「ワールドスピーク」シリーズについて簡単にご紹介いただけますか?

ワールドスピークにはポータブルタイプと据置タイプがありますが、当社はもともと据置タイプを一番初めに販売しました。

翻訳機の後発企業として、差別化できる要素は何なのか?ということを検討したところ、やはり当社はBtoBのお客様が非常に多いですので、まずは一般的な翻訳機とは形状が違う差別化した商品でBtoBのところを攻めたいなというところがありました。その後、一般的な形状の翻訳機も販売することでより提案の幅を広げるべく、今回第2弾でポータブルタイプを発売したという経緯がございます。

ーー据置タイプの翻訳機を使うのは初めてで、今日見せて頂くのを楽しみにしていました。

据置タイプは2台1組でインターネットに接続して利用します。ディスプレイが8インチと非常に大きいので、表示が見やすく、操作もしやすいのが特徴です。こういうものが窓口に置いてあったときに、外国の方が来られて翻訳機だと思わない、つまり使ってもらえなかったら意味がないので、ホーム画面に日本語・英語・中国語・韓国語の4言語で「これは音声による対話型翻訳機です。画面をタッチしてあなたの話す言語を選択してください」と表示させて、利用を促すよう工夫しております。

また、ホーム画面をタッチすると国旗選択画面が表示されるようにしています。ポータブルタイプの翻訳機ですと、「言語を先に設定してから翻訳をする」というステップがありますが、普通外国人に会った時点では”どこの国の人か”というのは分かりません。

その点ワールドスピークの据置タイプなら、国旗が表示されるので外国人の方に自分の言語を直感的に選んでいただくことができます。逆に、日本人側のスタッフの方は日本語を選んで会話画面を待機させておけば、あとはボタンを押しながら話せばすぐに翻訳されるようにできます。このように、据置タイプはポータブルタイプよりもコミュニケーションの導入部分がスムーズにいくというのも大きな特徴です。

キングジム「ワールドスピーク」公式サイトより

ーーこの2台はつながっている状態なんですね。

はい、インターネットを介したペアリングでつながっております。72言語の双方向翻訳に対応しています。

ーーポータブルタイプについてもご紹介お願いします。

ポータブルの方は155言語と17言語のオフライン翻訳に対応しておりまして、翻訳機市場では対応言語数No.1となっております。こちらは翻訳するときにずっとボタンを押しておく必要がない製品でございまして、音声が止まったことを認識して数秒で翻訳ができます。

また、本体真ん中の「マジックホームボタン」をワンプッシュしていただいて「言語:日本語と中国語」と言えば、簡単に音声コマンドで翻訳言語が変更できるというところが大きな特徴です。

公式サイトより

テザリング機能に対応しておりますので、海外出張や旅行などでWi-Fiルーターとしてもお使いいただけるようになっております。SIMカード付属モデルも販売しておりますが、こちらは「グローバル対応SIMカード」が付属したものと「国内専用SIMカード」が付属したものがあります。国内専用SIMに関しては、インバウンド需要で業務用として使っていただくうえで、通信がつながらなければ翻訳ができないので、通信の品質を担保するためにソフトバンクのキャリア回線を利用しております。

ポータブルのラインナップ(公式サイトより)

ーーオフラインでも17言語の翻訳に対応ってすごいですよね!

ありがとうございます。オフライン翻訳の対応言語は他社さんと比較して1番多くなっております。ただ、オフライン翻訳の精度には改善の余地がありますので、引き続きアップデートしていきたいと考えております。

 

据置タイプ発売までの経緯

ーーキングジムさんと言えば事務用のファイルやテプラなどのイメージが強いですが、「翻訳機」を発売するに至った理由や経緯を教えてください。

当社はテプラやファイルに限らず、オフィスに関連するものであれば開発はどんどんやっていけるというのが前提としてありました。その中で、インバウンド(訪日外国人)に対して苦労されているというお客様からの声が非常に多くありましたので、翻訳機を作っていきたいという気持ちがどんどん強くなっていった経緯があります。

実は、もともと当社ではカメラで単語を撮影すると翻訳できる「イミシル(編集部注:現在は販売終了)」という端末を作っていたんです。

ワードリーダー「イミシル」(現在は販売終了)

ワードリーダー「イミシル」(現在は販売終了)

また、テプラでは、多言語表記に対応するための「外国語ラベル工房(http://tepra.kingjim.co.jp/)」というサービスを2010年から提供しております。「翻訳」や訪日外国人に対応するためのツールという観点は前々からあって、そこからの派生で、本格的に翻訳するためのツールとして「翻訳機」もぜひ製品化したいというところが根底にありました。

ーー2017年に、ログバーの「ili(イリー)」やソースネクストの「ポケトーク」が発売されましたが、その前から考えておられたんですか?

案としてはありましたね。翻訳機が出始めた2~3年位前から私たちも考えていました。

2017年発売:ログバーの一方向翻訳機「ili(イリー)」

2017年発売:初代ポケトーク(ソースネクスト)

 

ーー結果として翻訳機の分野では他社に先を越されてしまった形になったわけですが、当時はどうお感じになりましたか?

音声の認識エンジンですとか翻訳エンジンの技術的な向上がどんどん見受けられたので、独立した単機能の製品として製品化しても意味があるレベルまで実用的になってきてるのかな…というところを感じてきたので、ちゃんと製品化していこうというのがもう少し具体的に進んでいったという経緯がありますね。

ただ、開発の案としてはあったんですけれども、やっぱりポータブルタイプの翻訳機ってスマートフォンで置き換えがきく部分もあると思ってまして、そういった意味ではポータブルを後発で出す意義っていうのはちょっとその時点では感じなかったので、当社として差別化できるポイントとして、どこかシーンだったり用途を絞ったうえでそこで戦えないかなっていうのが1つポイントの部分でした。

 

ポータブルタイプも製品化

ーー据置タイプの後に、ポータブルタイプを製品化しようとした理由はどこにあったんでしょうか?

第一弾として据置タイプで参入してみて、高い評価を頂いた一方で、お客様からご意見を頂くこともありました。例えば、ホテルなどの導入事例では、フロントでは据置タイプでいいんですけど、客室で対応する時どうすればいいの?と言うようなお客様の声がどうしても多かったんです。こうしたお客様の声を起点に、なんとかこのニーズを製品として具現化しないといけないと感じました。お客様に一括で購買していただくことを考えれば、やっぱりポータブルタイプも当社として用意したほうが提案の幅が広がるなと思いましてポータブルも販売しようと考えた経緯がございます。

ただ、2020年には東京オリンピックもありますし、時間があまりない、なるべく早く参入したいというところがあったので、イチからのオリジナルの開発というよりは海外のメーカーさんと提携して日本向けにローカライズできるような製品はないかと色々探していました。

ーー「ワールドスピーク」を販売するうえで、独自にカスタマイズされた部分があれば教えてください。

一番大きなところは、SIMカードを付属させることを念頭に置いておりましたので、周波数帯に対応するために基板を変えております。ソフトバンクのSIMを使う予定がそもそもあったので、プラチナバンドに対応できるようにしました。また、元々のモデルに表示されるUI(ユーザーインターフェース)が少々ラフな部分がありました。当社は主に法人のお客さんを狙っているというところもありますので、日本で展開するうえで、使われる方が嫌な気持ちにならないような説明の文言とかUIとかそういったところもローカライズをしております。

ーー具体的にどんな点が”ラフ”なんでしょうか?

例えば、無線LANに接続されていない場合、日本の製品であれば「ただいま無線LANにつながっておりません。設定を確認してください」みたいなメッセージが表示されると思うんですけれども、元々のモデルの場合は「つながってない!ダメだよ!」みたいなメッセージが表示されるんです(笑)そういったところを丁寧な表記に変更いたしました。

ーーなるほど、日本との違いがあって面白いですね。他にもカスタマイズされた部分はあるでしょうか?

ユーザビリティも向上させました。例えば、もともと真ん中のボタンは「音声コマンド」用としてしか使えない仕様になっていたんですが、多くの人はスマートフォンに慣れているので、真ん中のボタンは直感的に「ホームボタン」として使いたくなるのではと思いました。

そこで、真ん中のボタンをホームボタンとしても使っていただけるように、翻訳画面に戻る機能を追加しています。他にも、使いづらさにつながるような部分は細かく指示してソフトを修正しております。

 

「ワールドスピーク(ポータブル)」こだわりのポイント

ーー引き続きポータブルタイプに関してお聞きします。ここはポケトークや他の翻訳機に負けないというこだわりポイントを教えてください。

やはり大きな違いとしてはオフライン翻訳に対応しているというところです。通信環境がないというシチュエーションはどうしても出てくると考えております。もともと据置タイプの方では、通信環境必須な商品であるがゆえに、「こういうところで使いたいんだけど」というお客様の声が非常に多くありまして、「すみません、通信環境がないと使えないんですよ」ということもありました。地下にある施設とか、山奥にある施設であるとか、そういったところではどうしても使えないという話があったので、オフラインに対応することが強みになると思っております。

また、海外に持ち出すことも非常に多いと思いますので、テザリング機能をつけてあります。海外への旅行や出張で必需品として使っていただけたら嬉しいです。

あとは電池容量が非常に多いので、長時間お使いいただけるというのも強みになると思います※。

※編集部注:ワールドスピークの電池容量は2,500mAhで連続動作時間は約30時間。(ポケトークSの電池容量は1,200mAh。ポケトークWの電池容量は2,200mAh)

 

ーー「音声コマンド」も大きな特徴ですよね。これは言語選択以外にも対応しているんでしょうか?

現時点では言語を選ぶ機能しかないですが、国名でも選べるようになっております。例えば、ボタンを押しながら「言語、中国とインド」と言えば、中国語とヒンディー語が設定されます。インドなど複数の言語がある国の場合は、主な言語を表示させるようにしております。

公式サイトより

ーーこれはいいですね、やっぱり「どこから来たの?」と国を聞くところから会話が始まることが多いですもんね。他にもこだわりポイントはあるでしょうか?

SIMカードにもこだわりがありまして、インバウンド需要を考えた時の、日本における通信の質というところをソフトバンクのキャリア回線(国内専用SIMカード)で担保したうえで、海外向けについては178の国と地域で使えるグローバル対応SIMカードに対応しています。これも翻訳機の中では1番多くの国でお使いいただけるグローバルSIMカードとなっております。言語数も多く、使える国も多いので、あらゆる法人様の出張ニーズを細かくフォローできるのが大きな特徴です。

ーー対応言語数も対応エリアもNo.1はすごいです!グローバルSIMについてはインドの通信会社のSIMカードを利用しているということですね。

はい。TATAコミュニケーションズという通信会社で、通信業界で言えば、かなり大手で知らない人はいないような会社なんです。世界1周している海底ケーブルを持っている会社で、世界をほぼ網羅した通信環境が構築できるというのが強みの会社なので、うちの製品の設計思想と合致していた部分がありましたので、そことお話しして一緒にやらせて頂いているという感じですね。

ーー初期設定についてもお聞きしたいんですが、SIMとセットで購入すると、SIMは端末にセットされた状態で送られてくるんでしょうか?

はい、そうですね。SIMを入れて全部アセンブリをやったうえで出荷しております。

ーーでは、ポケトークのようにスイッチをONしただけで使えるということでしょうか?

使用開始する前にスマホまたはPCでデータ開通の設定をしていただく必要がございます。メールアドレスとログインパスワードを設定して、「マイページ」を作成いただきます。その後、通信が開始されてデータ通信が使えるようになります。

ーーマイページを作成して、スイッチを入れれば使えるようになるということなんですね。

はい。マイページでは、データ使用量をリアルタイムで確認したり、データを使い切った後の再購入も簡単にできるようにしてありますので、最初にマイページを作っていただくようになります。

 

翻訳精度向上のための工夫

 

ーー次に、翻訳精度についてもお聞きしたいんですが、翻訳精度の向上のために工夫されているところがあれば教えて頂けますか?

実際に販売したうえで営業あるいはユーザーさんからの声で「この言語の精度が良くない」という評価を受けたという話があれば、すぐにソフトウェアを検証・評価して向上させるという対応をしている状況です。あとは、オフラインの翻訳精度も改善の余地があるので、引き続き精度の高い翻訳エンジンを探してアップデートで順次対応するような形で今は検討しております。

公式サイトより

ーーオフライン翻訳はどんな仕組みで翻訳をしているんでしょうか?

基本的にはオンライン翻訳と同じで、音声を認識する「音声認識エンジン」と、それによってテキスト化されたものを翻訳する「翻訳エンジン」、また翻訳されたテキストに音声を合成させる「音声合成エンジン」の3つで翻訳を行っています。この一連の作業をネット上のエンジンを使って行うか、端末の中に組み込んだエンジンで行うかの違いだけになります。

ーーこの中に翻訳ソフトのようなものが入っているということですね。

はい。ただし、オンラインであれば常に更新されていくんですが、オフラインの場合はある時点で最新の翻訳エンジンだったり音声認識エンジンを搭載することしかできないので、定期的にアップデートでフォローしていく必要があるかなと思っております。

ーーでは、基本的にはネット上で使えるような最新のエンジンを、ある時点ではこの中に入れられるということでしょうか?

そうですね。

ーー他の翻訳機のオフライン翻訳を使っていると、オフライン専用のiliを除き、そもそも話した言葉を正しく聞き取ってくれないということがすごく多いんですよね。

そういうこともあると思います。一口に「音声認識エンジン」と言っても色々なメーカーが出してまして、選定するメーカーさんによって精度は全然違ってきますね。どれだけ精度の良いものを評価して採用するかというのは、最終的な端末における精度の高さに出てきます。

ーーどの翻訳エンジンを利用されているかは公開できるものでしょうか?

詳細については差し控えさせていただきたいと思いますが、やっぱり翻訳機はビッグデータがものをいう世界なので、基本的にはGoogleとMicrosoftと百度などの大手ITメーカーが出しているエンジンを使っております。

ーーGoogleやMicrosoftなどのエンジンには、それぞれどんな特長があるんでしょうか?

翻訳精度で言うとやっぱり英語圏ならGoogle、中華圏なら百度が一番になるんじゃないでしょうか。聞いたところでは、Microsoftは音声認識のレベルが高いそうです。

ーー韓国語に関してもGoogleが優れているんでしょうか?

色々ですね、その時々で接続するエンジンは変えております。

ーーリアルタイムで変わるという訳ではないということでしょうか?

そうですね、後追いにはなってしまうんですが、市場の評価としてこの翻訳エンジンはあまり良くないということになったときに変えていくというようなイメージですね。

 

1番人気はWi-Fiモデル

公式サイトより

ーーポータブルのラインナップについてですが、SIMなし(Wi-Fiモデル)・グローバルSIM1GB・グローバルSIM3GB・国内専用SIM使い放題の4つがあります。どれが一番人気があるのでしょうか?

今現在は、Wi-Fiモデルが一番多く出ております。法人のお客様でもWi-Fi環境がないというお客様や、セキュリティの関係で違うSIMを使いたいなどの事情をお持ちのお客様にはSIM付きモデルを選んでいただいておりますが、安く導入したいお客様はWi-Fiモデルで自社の無線を使っていただくというイメージですね。

ーー「国内専用SIM使い放題付きモデル」は税抜で56,000円と高めの価格設定ですが、選ばれる方は多いんでしょうか?

官公庁関連のお客様は、かなりセキュリティが厳しい無線LANだったりネットワーク環境下なので、独自に通信環境を作りたいという意味合いでSIMカード搭載モデルを選んでいただけることも多いですね。

ーー国内専用は法人向けなんですね。

もともと製品コンセプトとしても、当社はテプラなどで積み上げたBtoBのお客様向けのチャネルの方が強いので、そちらに向けて開発しております。

ーー個人の方が海外旅行向けに購入する場合は、グローバルSIM1GB(税抜36,000円)が価格的にも第一候補になるのではと思いますが、2年間で1GBというのは普通に使っていれば足りる容量でしょうか?

もちろんシミュレーションも行っているんですが、1GBあたりで35時間程度翻訳ができます。1GBについては海外旅行をしていただけるようなBtoCのお客様向けに設定しているのですが、一般の方で海外旅行に年数回行く人ってそんなにいないと思っておりますし、1日当たりもそこまで使うこともないという仮説のもと、2年間で合計14日間くらい、1日当たり2時間くらいで合計35時間程度翻訳できるという容量で十分なのかなと思っております。

2年間で設定している理由は、年間で海外旅行は行っても1回くらいが現実的ではないでしょうか。そこで2年間持たせることで、例えば今日買って明日から1週間旅行に行ったとしても、来年も使ってもらえるようなイメージで2年間設定しております。

 

担当者が同じように操作しながら電話でサポート

ーーワールドスピークのサポート体制についてもお伺いさせてください。操作が苦手な方が購入されるということが多くなるんじゃないかなと思うんですけれども、サポートは受けられるんでしょうか?

もちろんです。当社はほかの会社さんに比べてアフターフォローがかなり充実しているというところ大きな利点だと思っています。テプラなどですでにしっかりとしたお客様相談窓口を構えてますし、操作感などについては電話を受ける担当者が、同じ機種を持って同じように操作をしながら1つ1つお伝えするというのを基本ベースに対応させていただいています。他社さんはメールでしか問い合わせできないというところもありますが、そのあたりの対応は当社はしっかりサポートさせていただきます。

ーー電話で対応してくださるのはうれしいポイントですね。初歩的な質問がバンバン来たりとかはないですか?

そもそも、SIMって何なの?など聞かれることもありますが、どんな質問でも丁寧に対応させていただきます。

同時に、メーカーとしてお客様が疑問を持たれないようなホームページの作り方とか説明書のデザインなど、いただいた質問をもとにフォローできるようにしていこうと考えております。

 

翻訳機の目指すべき「完成形」とは

ーーポケトークSもそうですが、最近では「カメラ翻訳」機能がついている翻訳機が一般的になりつつありますよね。高尾さんとしては翻訳機にカメラ翻訳機能は必要だと思われますか?

わたし自身は、単価を上げてまでつける必要はないと考えております。というのも、先ほどでお話しした「イミシル」で障壁となったのは、印刷物側の文字の”フォント”なんです。

印刷されている文字って必ずゴシック体ではないですし、必ず明朝体なわけでもないですし、デザインフォントがたくさんあります。使う側としては、カメラで撮ったらどんなフォントのデザインでも翻訳してくれるだろうと思うんですが、実際には誤訳がかなり多いとか文字自体を読めないというケースが多くあるんです。標識とか公共のものであれば決まった読みやすいフォントだったりするんですけれども、デザインフォントに関しては対応がなかなかできないですし、手書きだとダメとかあるので、どうしても必要な時はスマホで代用してもらえればいいのかなと思っています。

カメラも翻訳だけでなくて人物がきれいに撮れるとか、そのままSNSに上げたりということができるのであればカメラ自体の機能っていうのにそれなりに意義があるのかなって思うんですけれども、翻訳だけだとちょっとオーバースペックな印象を持っています。

カメラの付いた翻訳機が増えている

ーーなるほど。専門的な見地からのご意見をお聞きできてよかったです。

ただ、SNSを見ているとやっぱりカメラ翻訳がいいっていうご意見はありますよね。

ーー「ついてるか・ついてないか、だったらついている方がいいかな…」というくらいの軽い感じの意見も中にはあるかもしれないですね。

実際は、レストランのメニューとかって結構フォントが変わったものが多いので、正しく認識するのはなかなか厳しいのではないかなと思います。ただ技術自体は確実に上がっていますが、スマホで取って代われる技術なのでやらなくていいかなとは思っています。

「Google翻訳」アプリのカメラ翻訳機能

ただ翻訳に関しては、スマホの翻訳アプリだと得意な言語・苦手な言語に精度の差が出てしまうので、「翻訳機」という単独の機能で成り立つもので、アプリに取って代わらないんじゃないかなとは思っています。

ーー会話するときの使い勝手も違いますしね。

そうですね。日本人は、自分のプライベートなものを他人に渡したくないという抵抗感もあるので、会話のためとはいえ、自分のスマートフォンを見知らぬ人に渡したり、見せたりしたくないですよね。こういった点を考えると、翻訳機自体が電卓などと同じように、単機能の機器として残っていく製品なのではないかなと思っています。

 

ーーそう考えると、ワールドスピークはキングジムさんの商品のコンセプトと合っている感じがしますね。

そういっていただけると嬉しいです。

ーー1割の人の心に刺さる製品をつくるというのがキングジムさんの製品づくりのコンセプトとお聞きしました。なにか1つのことに特化して便利なものを作ってこられているんですよね。

なるべく機能に関してプラスプラスではなく、不要な機能はそぎ落とすことを意識して開発に取り組んでいます。

 

【導入事例】単なる翻訳機ではなく、窓口業務の効率化ツールへ

ーー最後に、これまでの販売・導入実績や今後の販売目標を教えて頂けるでしょうか?

具体的な数量については公表を差し控えさせていただければと思いますが、据置タイプの実績としましてはホテル・病院・官公庁窓口など窓口業務が必要なお客様には多く使っていただいております。あとはチケット売り場などですね。例えば公共交通機関の高速バスのチケット売り場とかフェリー売り場などはアクリル板で仕切られていて、小さい窓口が空いていてお金やチケットのやり取りをするということがありますが、その場合ポータブルタイプではなかなか対応がしにくいというところがございますので、2台1組で置いておくことで簡単に翻訳ができるということで、地方のフェリー会社さんとかで大口で契約いただいたりするケースもございます。

据置タイプの利用シーン一例(公式サイトより)

ポータブルに関して言うと、まだ発売から2カ月ですが、ホテルなど観光関係のところはもちろんなのですが、小・中・高などの授業で使いたいということで導入いただいたケースもございます。英語のネイティブ発音を聞かせたいという目的で、ポータブルタイプをグループ分けした生徒さんの机に1台ずつ置いて、授業を変わった角度からやりましょうというのも導入実績としてはございまして、ちょっと面白いなと思いました。

在留する労働関係の外国の方も増えているので、学校とか病院とか生活のインフラとして訪れるところで言語が通じないということが以前よりも多くなってきております。お子さんたちは日本の学校に通っているので日本語を話せるんですが、親御さんは先生との面談の時に言葉が通じないなどの環境がとても増えてきているようで、ポータブル翻訳機を使って意思疎通を図るという使い方もしていただいておりまして、これは発売当初想定していなかったお客さんかなと思っております。

ポータブル型の利用シーン一例(公式サイトより)

ーーオリンピックなどの一時的なインバウンド対応だけではないんですね。

やっぱり労働基準法が変わってから在留する外国人の方はかなり増えてきているようです。あとは地域地域によって受け入れている外国人の方が全然違って、ある地域はミャンマーの方が多いからミャンマー語対応してくれと言われますし、ある地域はモンゴル人しかいないからモンゴル語に対応してくれと言われる地域もありますので、多くの言語に対応しているというのはポータブルの強みです。

ーーモンゴル語にも対応※しているんですね。モンゴル語に対応している翻訳機はほとんどないので、その点も強みですね。

精度に関してはまだまだ改善の余地はあるんですが。とは言っても、翻訳機に関して私が思うのは、理解できる部分が0だったのが50%になって一部だけでも理解できるようになれば、コミュニケーションが全然違ってくると思います。どうしても100%の翻訳し精度を求めてしまうんですが、英語以外の言語なんて翻訳機がなければ簡単なあいさつ以外一切分からないことがほとんどだと思いますので。

他にも、港関係のところはポルトガル語など南米系の言語の需要があったりですとか、そういったところでは対応言語が据置タイプとポータブルで全く違うので、地域に合わせて提案しているというのが現状です。

※編集部注:2020年2月現在、音声入力・出力には対応していません。

 

ーー今後の目標についてはいかがでしょうか?

当社としては、やはり現状大きく差別化できている据置タイプをメインで販売していきたいと思っています。外国人対応に限らず、窓口業務を簡単にするためのツールとして、ぜひ据置タイプを役立てて頂きたいです。

応用の使い方として、ワールドスピークは日本語⇔日本語という設定もできるんですが、これにより今まで筆記で対応していた、例えば、聴覚障害をお持ちのような方ともコミュニケーションが取れます。

ーー実は先日、当サイトでも聴覚障害をお持ちの方から質問を頂いたんです。「筆談でコミュニケーションをとっているんですが、それに取って代われるおすすめの翻訳機はどれですか?」という質問でした。そういう使い方もされているんですね。

実際にこれで採用になった件数がかなりあるんです。据置タイプもそうですし、ポータブルでも日本語⇔日本語で翻訳ができるので、お年寄りなど、耳が悪いためコミュニケーションが取りづらいという場合に翻訳目的ではなくてコミュニケーションのために購入いただくというケースもあるんです。

窓口業務の必要なお客様に対して翻訳機をおすすめするにあたって、外国人だけにターゲットを絞ってしまうとたまにしか来ないので必要ないという話になってしまうところ、話した言葉をテキスト化させることで時間短縮してコミュニケーションが容易にできるというところで、窓口に色々な方が来る官公庁などでも採用していただいているという事例がございます。窓口で使っていただきやすい商品としてさらに派生できるところは派生させていきたいですし、据置タイプの認知度をさらに高めて販売していきたいなと考えております。

ポータブルについては、限定された場所以外のところで使いやすい製品なので、携帯性を求めるお客様については据置でも提案出来てポータブルも提案できるということで、「ワールドスピーク」というブランドとして総合的に提案の幅が広がっているので、2つの軸で販売を拡大していきたいというところが1番大きな目標です。

ーー本日はお忙しい中、ありがとうございました!

 

インタビューを終えて

お話を伺って特に印象的だったのは、「翻訳機は電卓などと同じように、単機能の機器として残っていく製品なのではないか」という言葉でした。

今やスマートフォンで何でもできる時代ですが、計算にしか使えない(言葉は悪いですが)電卓は、便利なツールとして今でも広く使われています。

その理由は、電卓は非常に手ごろな値段で買えるということもありますが、電卓の方がスマホより”使いやすさ”の点で圧倒的に優れているからではないでしょうか。

翻訳機も電卓のようなツールを目指すと考えると、残すべき機能・無くしていい機能がおのずと見えてくるのではと感じました。

また、翻訳機といえばポータブル型という固定概念がありましたが、据置タイプの方が使いやすい場面があること、外国人だけでなく、聴覚障害をお持ちの方とのコミュニケーションにも役立つツールであることなど、新たな気づきも得ることができました。

「据置タイプ」と「ポータブルタイプ」という2つの形をもつ「ワールドスピーク」シリーズの登場をきっかけに、翻訳機というツールがもっといろいろな場面で使われていくようになるかもしれません。

今後受付やチケット売り場など、色々な場所で「ワールドスピーク」が見られるようになるのを楽しみにしたいと思います。

高尾さん、ありがとうございました!

▼実際に使ってみたレビューはこちら

翻訳機「ワールドスピーク」ポータブルを使ってみた!特長や注意点を徹底レビュー

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